山の知識UP

5分間でわかる1円玉の法則

突然ですが、「1 円玉の法則」について聞いたことがありますか?数学的手法を用いずに、1 円玉を使って斜度
を簡単に割り出すことができるというのが、1 円玉の法則です。山頂が見えてきたのに、胸突き八丁でもう一歩
を踏み出すことに苦しんでいる場面が多くなってきた私自身、気になるのが登山道の斜度です。
そこで、ちょっとだけ今回は「5分間でわかる1円玉の法則」について述べてみます。
☞ 1 円玉に隠れる等高線の本数が平均斜度を示す。
1 円玉の法則は、1/25,000 の地図上で 1 円玉に隠れる等高線の本数がその地点の斜度を示すというものです。
勿論、斜度は地点によって変化しますので、一定範囲の「平均斜度」ということになります。

 

それでは、1/25,000の地図上に1円玉を置いてみましょう。図1は1/25,000の「三頭山」の地図の一部(拡大している)です。登山口である都民の森案内所から鞘口峠に向かう道では、1円玉の大きさのリング(A)に14本の等高線が隠れていました。1円玉の法則によると、この場合の平均斜度は14°となります。また、その先の鞘口峠から山頂に向かう道のリング(B)では、22本の等高線が隠れていたので、その平均斜度は22°となり、山頂に向けて次第に登りの傾斜角度が厳しくなっているのが分かります。

このように、1円玉の法則は1円玉の大きさに隠れる等高線の本数から、簡便に登山道の傾斜角度を数値化することができるというものです。

 

☞ 直径2cmの1円玉のどこに秘密が?1円玉の法則を紐解いてみる

しかし、調べた範囲ではその根拠について示されたものはありません。数学的手法を用いずに、どうして1円玉を使って平均斜度を割り出すことができるのでしょうか?以下に、私のスペキュレーションも入っていますが、1円玉の法則を紐解いてみます。

それは、1円玉が直径2㎝と区切りの良い長さであることです。また、地形図が二次元であり、水平距離と標高差が分かり易く傾斜角度を算出できるからです。1/25,000の地図では、1㎝は250mであることから、直径2cmの1円玉がカバーする水平距離(図2のX)は500mとなります。以下にちょっと確かめてみましょう。

10m間隔に等高線が引かれている1/25,000の地図上で、仮に1円玉に14本の等高線が隠れるとすると(図1 リングA)、標高差(最初の1本は標高差なし)は130m(Y)となります。水平距

離と標高差から、図2に示す三角形の角度θを求めれば良いということになります。

三角関数のタンジェントの定義により、tanθ=Y/X=130/500=0.26となります。そこで、「三角関数表」を見ると、近似値0.2493があり、角度θ≒14°となります。それでは、等高線が1円玉に22本隠れる場合(図1 リングB)はどうでしょうか?この場合、標高差(最初の1本は標高差なし)は210m(Y)となります。tanθ=Y/X=210/500=0.42となり、三角関数表から近似値0.4040が得られ、その角度θ≒22°となります。1円玉に隠れる等高線の本数と求めた角度θは一致しています。なお、いずれのtanθも算出した数値を超えない近似値を採用しているのは、登山道は曲がりくねっているところが多く、実際は傾斜が少し緩やかになっていることによるものと推察しています。

どうやら、1円玉の法則には数学的な裏付けがあるようです。

このように、山歩きで1/25,000の地図と1円玉を持っていれば数学的手法を用いずに、しかも簡便に平均斜度を割りだすことができます。勿論、1円玉を持っていなくとも、1/25,000の地図上で2cmを計測できれば同様のことができることになります。

 

☞ 1円玉の法則には限界もある

ここまでは、1円玉で平均斜度を割り出す方法についての説明がうまくつきます。しかし、1円玉に隠れる等高線の本数が37本,あるいは38本ぐらいまで多くなると、三角関数表にあるtanθのズレが次第に大きくなってきます。1円玉の法則が適用できるのはどうやら、1円玉に隠れる等高線の本数が37,38本ぐらいまでとなります。1円玉の法則には限界もあるようです。                                (記 佐藤拓夫)