山の知識UP

5分間でわかるコンパスの使い方

 

虫の音に少しほっとしています。季節は確実に進んでおり、登山の好季となってきました。その一方で、山岳事故の発生件数は年々右肩上がりに増加しています。警察庁のまとめによると、山岳事故の3/4は40歳代以上の年齢層で起こっており、そのうち約40%は道迷いによるものとされています。「たられば」ですが、地図とコンパスがあれば、道迷い事故を未然に防止できたケースもあったかもしれません。

実は、私は当会に入会するまで、山歩きにコンパスを持参したことも、使ったこともありませんでした。そもそも、コンパスの使用方法など全くわかりませんでした。コンパスの使い方については山関係雑誌等で繰り返し取り上げられていますが、正直、どれを読んでもしっくり頭に入ってきませんでした。なぜでしょうか?コンパスの使用に慣れていないことが最大の理由ですが、コンパス初心者の目線に立った説明が意外と少ないのです。コンパスの使い方は「習うよりは慣れろ」です。コンパスの使い方に関する説明に、もう少し工夫があればより理解も早まるのではないかと考えています。

そこでちょっとだけ今回は、コンパスの使用方法が全くわからなかった私が、「5分間でわかるコンパスの使い方」について述べてみます。地図とコンパスが近くにあるとより理解しやすいです。

☞ コンパスの磁針が示すのは真北(北極点)ではなく、磁北です

ご存知のように、コンパスの磁針(赤)が示す北(磁北)は、北極点(真北:しんぽく)ではありません。磁北と真北は異なります。コンパスの磁針は真北から西に少しだけずれた方向(磁北)を指します。地球内部の磁力の影響によるものです。

☞ 真北は地図上の縦線の延長線上にあります。

真北は地図上のどこにあるのでしょうか?真北は地図の縦線の延長線上(地図上の上)にあるように地図が作られています。では、磁針が指す磁北はどこかというと、場所によってずれ方の角度(磁気偏差;偏角)が異なります。本州の場合は真北から西(地図上の左)に6°~9°ずれています。関東地方の磁北は西に約7°傾いていると考えて良いでしょう。

☞ 先ず、地図上に磁北線を引いてみましょう。

 それでは、実際に地図上に磁北線を引いてみましょう。写真1は筑波山の地図(国土地理院)です。筑波山の偏角は7°40′(丸印内に記載)です。あらかじめ、地図上に定規の幅を利用して磁北線を何本か平行に(7°40′傾けて)引きます。赤ボールペンなどで目立つように磁北線を引きましょう。国土地理院のホームページでは、自動的に磁北線を印字することができます。

       

☞ 次に、コンパスの左辺合わせをします。

写真2は、筑波山の最高地点である女体山から下り約40分で弁慶茶屋跡に到着した場合のコンパスの使い方を示しています。ここから先の登山道は、筑波山神社横とつつじヶ丘方面へと分岐しています。今回の下山口は筑波山神社の横とします。コンパスと地図を使って目的地方向を確認してみましょう。

先ずやることは地図上で行う左辺合わせです。コンパスの左辺(長辺のへり)を地図上の現在地(弁慶茶屋跡)と目的地方向(筑波山神社の横)に点線のように当てます。コンパスの丸みのある部分が手前側となります。延長線上に目的地方向があるように左辺を合わせます。

☞ そこで、回転盤(リング)の赤い矢印を磁北線と平行にし、その向きを必ず北向きにしましょう。

引き続きコンパスを地図上にそのまま置いてください。次に、コンパスの回転盤を回し、赤色の幅広い矢印(矢印側にMN:Magnetic North(磁北)、反対側にS:Southと記載されてある)を磁北線と平行にセットします。ここで磁針に惑わされないでください。磁針の登場はまだ先です。ここから先の手順での間違いが極めて多いです。回転盤の赤い矢印(MN)は進行方向に関係なく、必ず磁北線の北に合わせます。地図上の北から南に行きたい時などに、回転盤の赤い矢印(MN)を南向きにセットしてしまうことが多いです。写真2では、弁慶茶屋跡から南南西方向の筑波山神社横に下山する場合でも、赤い矢印(MN)は必ず北向きにセットしています。これを誤ると、別の異なる方向に進む可能性が大きいです。

☞ 地図からコンパスを離し、垂直胸当てをします。

ここまで作業が進んだら、今度は地図からコンパスを離し、垂直胸当てを行います。垂直胸当てとは、コンパスを地図から離し、身体の前に構えることです。両肘を約90°に曲げるのが良い姿勢とされていますので、コンパスはヘソの上の腹部付近で身体から垂直の向きにセットします。

☞ ここから先は、コンパスの磁針が頼りです。

これまでは磁針と関係なく作業を進めてきましたが、やっとここで磁針が必要となってきます。垂直胸当ての状態で身体を回転すると、回転盤の赤い矢印と磁針とが重なるところがあります。つまり、一致したところです。そこで身体の回転を止めてください。

☞ その時の進行線が進むべき目的地方向です。

回転盤の赤い矢印と磁針とが重なった(一致した)時のコンパスの進行線(回転盤の外プレートにある矢印)が進むべき目的地方向となります。進行線を確認し、頭を上げて進行線が示す前方を見ましょう。何が見えてきましたか?感動があるかもしれません。回転盤の矢印も磁針も共に赤色をしているので赤赤合わせともいわれています。

 

コンパスの使い方は「習うよりは慣れろ」です。以上の作業を5分間で繰り返し行うと、現場ではより短時間

で目的地方向を割り出すことが可能となるでしょう。最後まで読んでいただきありがとうございました。

                                                                                                      (記 佐藤拓夫)